タイトルにもあるとおり、日本産業保健法学会に入会いたしました。
1 産業保健とは(目的)
日本産業衛生学会によると、産業保健活動の目的は、
「労働条件と労働環境に関連する健康障害の予防と、労働者の健康の保持増進、ならびに福祉の向上に寄与すること」(産業保健専門職の倫理指針https://www.sanei.or.jp/?mode=ethics)
とされています。
2 メンタルヘルス不調に伴う労災補償の状況
ところが、会社での業務を原因として、従業員がメンタルヘルス不調の状態に陥ってしまうことがあります。
そして、このメンタルヘルス不調に伴う労災補償の状況は、近年増加傾向にあると言われています。
厚生労働省が公開している直近3年間のデータは、以下のとおりです。
- 平成30年度 請求件数1820件、支給決定件数465件
- 令和元年度 請求件数2060件、支給決定件数509件
- 令和2年度 請求件数2051件、支給決定件数608件
(平成30年度:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05400.html
令和元年度:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11975.html
令和2年度:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19299.html)
令和2年度は、前年に比して請求件数が若干減少しているものの、支給決定件数は約1.2倍に増加しています。
3 企業がメンタルヘルス対策を行う必要性
恒常的な長時間労働等によってうつ病に罹患し、自殺してしまった従業員の遺族が、会社に対して損害賠償を請求する事案があります。
事案にもよりますが、会社が数千万円~1億円以上の高額の賠償義務を負うケースもあります。
代表的な判例は電通事件(最判平成12・3・24)ですが、直近のものですと青森三菱ふそう自動車販売事件(仙台高判令和2・1・28)があります。
企業がメンタルヘルス対策を行うべき理由は、高額の賠償責任だけではありません。
従業員がメンタルヘルス不調に陥ってしまうと、当該従業員のパフォーマンスは低下してしまいますし、また、当該従業員の業務を他の従業員でカバーする必要が出てきます。
その他にも、ブラック企業として企業名がSNSや転職情報サイトに書き込まれたり、裁判例という形で企業名が公表され、企業イメージの低下につながるおそれがあります。
従前と異なり、就職先の選択において、企業が従業員の健康や働き方に配慮しているかという点が相当重視されています。
そのため、従業員のメンタルヘルスに配慮していない場合、採用活動において不利に働くおそれがありますし、採用できたとしても早期退職に繋がりかねません。
4 産業医を取り巻く状況の変化
また、産業保健に関する法的責任は、企業にとどまらず産業医も負う可能性があります。
少し古い事案になりますが、産業医と従業員との面談の際に、「それは病気やない、それは甘えなんや。」、「薬を飲まずに頑張れ。」、「こんな状態が続いとったら生きとってもおもんないやろが。」などの産業医の不用意な発言を理由に、産業医の不法行為責任が認められた例があります(大阪地判平成23・10・25)。
ところで、平成31年4月に労働安全衛生法が改正され、産業医の権限が強化されました。
この産業医の職務権限の強化・拡大に伴い、産業医の責任や役割も拡大し、以前に比して産業医が債務不履行責任(事業者の安全配慮義務にかかる履行補助者)や、不法行為責任といった法的責任を追及されるおそれがあります。
今後は、安衛法や労働基準法などの関係法令や判例を意識した対応が求められてくるかもしれません。
5 おわりに
会社の職場環境の健全化を通じ、従業員が健康かつ活き活きと働ける社会であって欲しいと願います。従業員が本来のパフォーマンスを発揮することは、企業の持続・発展に欠かせません。
企業の成長と、そこで働く従業員の充実した就業の実現に貢献できるよう、また、現場で活躍されている産業医等の方々のお役に立てるよう、研鑽を積んでまいりたいと思います。