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広告と法律②~「強調表示と打消し表示」(景品表示法)~

 

 

打消し表示とは

 

商品・サービスを消費者に訴求するため、その内容(品質等)や取引条件(価格等)を断定的表現や目立つ表現などを使って強調した表示のことを「強調表示」といいます。

 

自社商品・サービスのアピールポイントを強調し、目立たせることは広告において重要です。

しかし、広告の強調表示を見た消費者は、対象商品・サービスの全てについて、 無条件・無制約に当てはまると考える可能性があります。

そこで、強調表示だけでは消費者が認識できない例外条件、制約条件等があるときは、その旨の表示を行わなければなりません

 

この、消費者が強調表示から予期できない事項であって、商品・サービスの選択に当たって重要な考慮要素となるものについての表示を「打消し表示」といいます。

 

打消し表示を適切に行わない場合、その強調表示は不当表示(優良誤認表示・有利誤認表示)に該当してしまう可能性があります。

 

 

強調表示と打消し表示の具体例

強調表示:「入院、手術、通院の保障が、一生涯続いて安心。何回でも受取OK!」

                ↓ ↓

打消し表示:「医療行為、医療機関及び適応症などによっては、給付対象とならないことがあります」

 

強調表示:「楽しくダイエット!! 毎日すっきり起きて、 体重が5kg減り、着られなかった服がぶかぶかになり、周りからほめられるようになりました。」

                ↓ ↓

打消し表示:「個人の感想であり、効果には個人差があります」、「個人の感想であり、 効果を保証するものではありません」、「個人の感想であり、 効果、効能を表すものではありません」

 

これ以外の具体例については、「打消し表示に関する実態調査報告書」(消費者庁)に記載されています。

  

打消し表示の表示方法

 

打消し表示は、その内容を消費者が正しく認識できるように記載する必要があります。

 

例えば、打消し表示の文字が小さい場合や、打消し表示の配置場所が強調表示から離れている場合、消費者は打消し表示に気付くことができません。また、打消し表示の表示内容に問題があれば、打消し表示を読んでもその内容を理解することができません。

このように、打消し表示をしても、その表示方法や内容が適切ではなく、消費者が正しく内容を認識できないときは、不当表示に該当するおそれがあります。

 

 

では、打消し表示はどのように表示すればよいでしょうか。

 

強調表示と打消し表示とを合わせた表示物全体として、商品・サービスの内容や取引条件が消費者に正確に理解されるようにしなければなりません

 

個別の広告方法にもよりますが、打消し表示の文字の大きさ・強調表示の文字と打消し表示の文字の大きさのバランス・打消し表示の配置箇所・打消し表示と背景の区別等から総合的に判断されます。

 

具体的な考慮要素は、消費者庁「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点 (実態調査報告書のまとめ)」に詳細にまとめられています。

 

以下では、ポイントを簡単にまとめます。

 

 

全ての媒体に共通の要素

  • 打消し表示の文字の大きさ(消費者が打消し表示を見落としてしまうほど文字が小さくなっていないか。)

  →例えば、消費者が手にとって見るようなチラシなのか、離れた場所から目にするポスターなのかなど、消費者が実際に目にする状況を想定し、媒体ごとに適切な文字の大きさを検討する必要があります。

 

  • 強調表示の文字と打消し表示の文字の大きさのバランス(打消し表示の文字の大きさが強調表示の文字の大きさに比べて著しく小さくなっていないか。)
  • 打消し表示の配置箇所(打消し表示が強調表示から離れすぎていないか。)
  • 打消し表示と背景との区別(打消し表示の文字の色と背景の色が対照的でないなど、文字と背景との区別がつきにくくなっていないか。)

  →例えば、明るい水色の背景に、白の文字で打消し表示を行った場合、打消し表示に気付きにくいでしょう。

 

動画広告の要素

  • 打消し表示が含まれる画面の表示時間(消費者が気付かないか、気付いたとしても読めない程短くなっていないか。)
  • 強調表示と打消し表示が同じ画面に表示されているか(別の画面に表示されている場合、消費者が打消し表示に気付くか。気付いたとして、打消し表示が強調表示に対応するものと認識できるか。)
  • 音声等による表示の方法(強調表示が音声により強調されている一方、打消し表示が音声により表示されていないことによって、音声により強調された表示にのみ消費者の注意が向かっていないか。)
  • 打消し表示と同じ画面に現れた人物等に消費者の注意が向けられ、打消し表示に消費者の注意が向かないようになっていないか。
  • 複数の場面で内容の異なる複数の強調表示と打消し表示が登場するか

  →このような場合、動画中の情報量が多いため消費者が全ての打消し表示の内容を正しく認識することが難しいとされています。

 

 

Web 広告(PC)の要素

  • 打消し表示が、強調表示が表示されている位置から1スクロール以上離れていないか。
  • 1スクロール以上離れて表示されている場合、消費者が打消し表示に気付くことができるか。
  • 打消し表示が強調表示と別の画面に表示されている場合、それぞれ対応するものと認識できるか。

 

 

Web 広告(スマートフォン)の要素

  • アコーディオンパネルに打消し表示が表示されていないか。
  • アコーディオンパネルに打消し表示を表示する場合、強調表示に近接した箇所にラベルを配置するなどして、強調表示とアコーディオンパネルに表示された打消し表示とが一体として認識されるようにしいるか。
  • 強調表示が画面に表示された際に、打消し表示が表示されたアコーディオンパネルのラベルを消費者が必ずタップするように工夫されているか。
  • 強調表示と共にコンバージョンボタンを用いる場合、消費者が、強調表示の前後の文脈の中で打消し表示の存在を認識できるように表示されているか。
  • 強調表示と打消し表示の距離は隣接しているか。

  スマートフォンは何画面分もスクロールする必要がある縦に長いページの構成になっている場合があるため、強調表示に隣接した箇所に打消し表示を表示することが求められます。

 

  • 打消し表示の文字の量が多く、強調表示に隣接した箇所に打消し表示を表示できない場合、画面上に強調表示が表示された時点や、強調表示の表示された画面からスクロールした時点で、消費者が特に操作等を行うことなく打消し表示を認識できるようになっているか。
  • 文字の大きさや、文字・背景の色や模様を、強調表示と打消し表示で統一するなどにより一体として認識できるようになっているか。

 

まとめ

 消費者は、広告に接する際に打消し表示を意識して見ない(読まない)と言われています。

「打消し表示に関する実態調査報告書」において、消費者庁は、「景品表示法に違反する事案に接した場合には、厳正に対処する」と述べています。

事業者としては、こうした消費者の実態を踏まえ、そもそも打消し表示を行わなくて良い強調表示を行うか、打消し表示を行う場合であっても、各媒体の特徴に応じて消費者が内容を正確に理解できるよう、広告に記載する内容を検討する必要があります。