新型コロナウィルスの流行に伴い、「免疫力アップ」といったキャッチコピーが付けられた食品や飲料を目にするようになりました。
では、健康食品や加工食品のパッケージに「免疫力アップ」というキャッチコピーを使用することは可能でしょうか。
結論から言うと、未承認医薬品の広告(医薬品医療機器等法68条、以下「薬機法」といいます。)にあたり、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又はこれを併科される可能性があります。
「医薬品」とは
そもそも、広告・販売しようとしている商品が「医薬品」にあたらなければ、薬機法によって規制されません。では、「医薬品」にあたるかどうかは、どのように判断されるのでしょうか。
「医薬品」にあたるかは、「通常人が医薬品としての目的を有するものであると認識するかどうか」によって判断され、それは「成分本質……、形状……及びその物に表示された使用目的・効能効果・用法用量並びに販売方法、販売の際の演述等を総合的に判断すべき」とされています(昭和46年薬発476号厚生省薬務局通知「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」参照)。
さらに、「身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする効能効果」が表示説明されている場合、医薬品的な効能効果を標ぼうしたものとみなされます(前掲通知)。
「免疫力アップ」といったキャッチコピーは、「身体の組織機能の一般的増強、増進」の効能効果を表示するものですので、医薬品的な効能効果を標ぼうしたものとみなされます。
したがって、健康食品や加工食品に「免疫力アップ」というキャッチコピーを使用した場合、「医薬品」に該当し、未承認医薬品の「広告」にあたるおそれがあります。
未承認医薬品の広告を行うとどうなるか
先に述べたように、罰則(2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又はこれの併科)があります。
さらに、「免疫力アップ」とのキャッチコピーを印刷した包装を使用できないため、既に販売した商品の回収や、在庫の廃棄をしなければならず、生産・回収・廃棄にかかるコストが余計にかかってしまいます。
そのため、消費者に対する訴求力の高い広告を考えると同時に、商品化の前に薬機法をはじめとした各種法規制に抵触しないかを検討することが重要です。
「免疫力アップ」に代わる広告の検討
とはいっても、何もキャッチコピーを付けないのではその商品の特徴を伝えられず、ユーザーに対する訴求力が下がってしまいます。
そこで、「免疫力アップ」に代わる広告方法として、どのようなものが考えられるでしょうか。
1 栄養補給、健康維持等、現在の状態の維持を表示する
栄養補給、健康維持等に関する表現は、医薬品的な効能効果にあたらないとされています(前掲通知)。
そこで、「免疫力の維持」や「健康維持」といった、現状の維持をうたう表現による広告にすれば、「医薬品」にあたらないことになります。
もっとも、食品にこのような表示をする場合、薬機法以外の規制にも気を付けなければなりません。
「免疫力の維持」や「健康維持」は、「特定の保健の目的が期待」できる表示ですので、特定保健用食品(いわゆるトクホ)や機能性表示食品などにあたらない限り、食品の包装容器・パッケージに表示することができません(食品表示基準9条1項10号)。
裏を返せば、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品に関する制度を活用すれば、食品の包装に「免疫力維持」や「健康維持」といったキャッチコピーを使用することができるようになります。
2 トクホと機能性表示食品どちらにするか
特定保健用食品(トクホ)は、消費者庁長官の許可が必要です(健康増進法43条1項)。
一方、機能性表示食品は、消費者庁長官への届出で足ります(食品表示基準2条1項10号)。
機能性表示食品は、特定保健用食品(トクホ)と異なり、国の審査は行われず届出で済みますので、トクホより迅速で、手続のコストがかからないといえます。
もっとも、機能性表示食品は、表示すべき事項が多く、表示に関するルールを守りつつ訴求効果の高いパッケージデザインを考える必要があります(詳しくは「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」等をご参照ください。)。
なお、機能性表示食品として、プラズマ乳酸菌が入った水が近年発売されました。デザインや表示など工夫されており、大変参考になります。
他方、特定保健用食品(トクホ)は、許可の要件を満たすか検討し、許可を得るというプロセスを経ることになりますので、費用や時間がかかります。
もっとも、トクホといえばお茶のCMでも良く見ますように認知度が高いため、訴求力が高い広告として選択することもありえます(皆さん一度はロゴを見たことがあると思います)。
手続に要するコストや表示事項の多さ、各制度のユーザー認知度などといった事情を考慮し、特定保健用食品(トクホ)と機能性表示食品のいずれの制度を選択するかを決めることになります。
おわりに
このように、広告については様々な法律やガイドライン等をチェックする必要がある一方、違反した場合には罰則や商品の回収・破棄にコストがかかるといったデメリットがあります。したがって、掲載しようとしている広告について事前にリスクを評価し、ユーザーに対する訴求効果のある広告をどのようにしたら実現できるか検討することをお勧めします。